私がこの「埋もれる」という恋愛小説を読む気になったのは、この小説が第3回日本ラブストーリー大賞を受賞した、からではモチロンなく、新聞に載った作者を紹介した記事を観たからである。
著者奈良美那さんは、大学時代に出会った韓国漫画が契機で、その後韓国への語学留学を経験、帰国後も翻訳など韓国との関わりが続いている。
小説も、韓国ソウルを舞台に、日本人留学生の女性と韓国男性二人との恋愛、1年間付き合ったやさしいエリート社員を捨て、中年にさしかかった掴みどころのない作家志望の男との愛に溺れていく、というものである。
濃厚なラブシーンもあったりするが、主人公がなぜ中年男に惹かれてゆくかが、私にはよく分かる気がする。
父親の仕事の関係で引越しと転校を余儀なくされ、一箇所に落ち着くことのない根無し草のような主人公と、故郷や家族との縁が薄く社会的にも阻害された男、二人の孤独な魂が磁石のように引付け合い、あるいは突き放す。
そんな男女の恋愛が、韓国を舞台にすることによって、よりリアリティが感じられて不思議。
私が間見たソウルの街、その空気感、その匂いがなぜかよく伝わってくるのだ。
男はパソコンに向かって小説を書き続けるのだが、礎石(そせき)にこだわり続けている。
それは男の定着への執着、憧れなのかも知れない。
甘いばかりではない、大人のシリアスな恋愛が描かれていて、絵に描いたモチ、みたいな韓ドラを通して見ている韓国とは一味違って、なぜか新鮮な感じがする。
いわゆる韓流ブームについての、奈良さんの冷めたコメントがまたいい。曰く
「昔はキムチや焼肉だけ、今はヨン様だけというように、全体像が伝わらない点は変わらない。日本人も韓国人も、自分の見たいものしか見ていない気がします」
韓流も所詮は、テレビ・映画・パソコンの仮想世界の中の出来事であり、現実世界へ発展することはついに無かったのである。
最後に余談ですが、この日本ラブストーリ大賞の賞金が500万円!にはオドロキました。
芥川賞よりよっぽど多いやん~