おそらく、私が映画館で見る今年最後の映画になると思う。
出版から30年、私が初めて読んでからすでに20年が経つアゴタ・クリストフの「悪童日記」。
読んだ時の衝撃があまりに大きかった文学作品の映画化は、観たいような観たくないような・・・
映画はほとんど原作通り、じつに忠実に作られている。
ところが、内容が内容だけに悲惨な場面が多いと思いきや、私的には、文字を読んで想像していた方がはるかに凄惨だったのである。
つまり、人間は現実より想像している時の方がよほど怖ろしいもの、なのかもしれない。
第二次世界大戦末期のハンガリー、小さな村の祖母の家に疎開した双子の兄弟の壮絶なサバイバル物語。
魔女と呼ばれる粗野な祖母は、ロクに食事も与えず彼らをこき使う。
そんな中、彼らはたんなる悪童ではなく、生きるために処世術として悪童にならざるを得ないのだ。
そして、その生活、見たものの一部始終を日記に書き留めていく。
苛酷な現実を生き抜く双子の兄弟の姿は、道徳や倫理を超えて気高くさえある。
暴力に耐え、空腹に耐え、けっして大人に媚びたりせず毅然としている。
戦時下という特殊な時代と環境はあるが、子どもとて大人以上に強く生きることがあるのである。
それは日本でも「火垂るの墓」のような作品にも描かれているが、けっして幸せなことではない。
アゴタ・クリストフ自身がハンガリー出身の亡命者でもあり、母国や母国語を棄てざるを得なかったことが作品に色濃く反映されている。
「悪童日記」の後「ふたりの証拠」「第三の嘘」という作品が書かれ、悪童三部作と呼ばれることになるのだが、じつに謎の多い、私にはミステリーなのだった。
悪童も日記を書いたように、アゴタ・クリストフにとって書くことは生きることだった。
たとえ母国語ではなく、敵語であったフランス語ででも・・・
映画が原作に忠実で、原作を読んだことがある者にとっても、両親の死に様だけははあまりに衝撃的であったことはだけはつけ加えておきます。