先週の日曜美術館を見て、急になつかしくなり読んでみた。
若い頃、オランダの画家エッシャーに心酔していた絵描きの友人がいた。
でも私は、エッシャーのだまし絵より、安野光雅の不思議な絵の方に親しみを感じるのだった。
今となっては、さらにその気持ちはつよい。
自伝といっても、自分のこれまでの人生を年代順に詳しく書く、といったものではない。
むしろ、絵のある自伝とあるように、私流に言えばスケッチ風自伝である。
もちろん、スケッチ風挿し絵がいっぱいなのだが、文章もまたスケッチ風なのである。
また、挿し絵には必ず自筆の文が添えられていて、それが何とも言えずいい。
おかしく、かなしいのである。
そんな挿し絵を見るだけでも楽しい本である。
そして、昭和という時代とともに生きてきた安野氏の自伝は、昭和の風景が満載である。
なつかしいそれらの風景を知る最後の、私は世代かも知れない。
停電なんかすこしもおどろかない安野氏ほどではないが、多少困っても生きてはゆけるのである。
狭心症やガンという病に見舞われながら、86歳の今も絵を描き続けていらっしゃる安野氏。
絵を描いてさえいれば機嫌がいいそうである。
子どもの頃から、とにかく絵を描くことが好きだった画家は、今も子どもの心を持ち続けているようだ。
さいごに、世界を旅した安野氏のことば。
「わたしたちは西洋と東洋のちがいにばかり目が行くが、よく考えてみると、違うところよりも同じことのほうが多い。霧もかかるし虹もでる、雨は空から降り、屋根は傘のように雨を受ける。
みんな同じ地球の上に住んでいる。そして国それぞれ、人それぞれに、ちがった毎日をおくっているのだと感じた。」