この本のことは何年も前から知っていた。
そればかりか、著者は同じ倉敷の住人で、我家からそう遠くない場所で古書店を営むまだ若き女性であることも。
その古書店
「蟲文庫」をようやく訪れたのが今年の春、そしてようやくその「蟲文庫」でこの本を手に入れた。
もちろん、アマゾンに注文してもよかったのだが、やっぱり著者じきじきに買いたかったのである。
実は、サインをお願いしたかった。
でも、何となく言いそびれてしまった、シャイな私なのだった。
この本は、苔の専門書ではないが、多くの写真と楽しいイラスト、そして何より著者の苔に対する愛情があふれている。
また、苔ばかりではなく、著者の生き方そのものにある清々しさをかんじる。
はっきり言って、苔に何の興味も関心もなかった。
それがこの本を読むと、苔が急にいとおしくなってくるから不思議である。
著者田中さんのように、ルーペを持って苔を採集に出かけたり、顕微鏡で苔の種類を調べたりはしないかもしれないが、少なくとも、下を向いて苔を探しながら歩きたい、と思うようになる。
また、どこかで苔を見つけたら、そっと触ってみたい。
この本で苔について初めて知ったことが多いのだが、一番印象に残ったのは、苔は空気中のかすかな湿り気や陽の光を取り込んで生きている。
まさしく、霞を喰って生きているのである。
なんていじらしい!苔のように生きられたらどんなにいいだろう。
とにかく、新しい世界への目を開かせてくれるオススメの一冊である。
さて、我家の庭を苔を探して一周したみたのだが、我家の庭には見つからなかった。
そこで道路をあるいてみると、コンクリートの割れ目に、たぶん、ギンゴケが生息していた。
私と苔との付き合いは、今はじまったばかりである。