たしか一週間前のこと、芥川賞発表の文芸春秋をいち早く買ったのは。
その後すぐに読んだのだが、何となくそのままになっていた。
今回は、又吉直樹と羽田圭介という二人の若手男性作家がダブル受賞して話題を集めた。
これは、第130回の金原ひとみと綿矢りさのダブル受賞以来のことではないか。
とくに、お笑い芸人である又吉直樹の受賞は、本の売り上げに大いに貢献しているようである。
私のように、芥川賞は文春で読むことが多い者にとっては、今回は二作も読めて得した気分である。
さて話題の「火花」、正直そんなに読み易い小説ではない。
ハタチのお笑い芸人徳永と、彼が師匠と仰ぐ破滅型の先輩芸人神谷との、約10年間の交流が描かれる。そのやりとり(とくに二人の会話)が、火花のようにぶつかり合い、刺激的で面白い。ただ、全体的なストーリーは、ほとんど印象に残らないのである。
私はじつは、お笑い番組をほとんど見ないので、お笑い芸人としての又吉直樹を知らない。なのでエラそうには言えないのだが、この小説は、又吉直樹のお笑い、あるいはお笑い芸人というものに対する自分の理論を、小説として語っているのではないか、と思ったのだった。徳永と神谷という相反するタイプの二人の芸人を通して。
そしてつくづく、お笑いって、こんなに理屈っぽいもんなん!と感心したのだった。
こんなに真面目でひたむきな青年が他にいるだろうか、とさえ思ったのだった。
もう一作の「スクラップ・アンド・ビルド」の方が私には読み易かった。
超高齢化社会に一石を投じる作品?
高齢の祖父と就職浪人中の孫の健斗のお話で、健斗は祖父の介護を過剰なまでにする。
しかし、それはけっして微笑ましい関係なのではなく、死にたいと口走る祖父の望みを叶えるためなのである。
ただ、それってちょっと違うんじゃない?と、私みたいな老人は思うのである。
それこそ、ボケて寝たきりで、しかも死なない老人を増やすことになるよ、と言いたいのである。
げんに、健斗より祖父の方がよっぽどしたたかにさえ思える。
生まれるのは偶然、死ぬのは必然のわたしたち、とかくこの世は生きにくい。
又吉、羽田両氏の今後の活躍を期待します。