「充たされざる者」上巻を読み始めた時は、途中で挫折するのではないか、と思った。
それが、なんとか読了できたのは、一つには図書館で借りた本だった、からかもしれない。
2週間、という期限があったのが、かえってよかったのかもしれない。
とにかく、不思議な小説で、最初から最後まで、悪い夢を見ているみたいなのである。
また、シュールで実験的な作品であるということで覚悟はしていたが、とにかく、長い!
悪夢や実験的な作品は、できたら短い方が私的には望ましい。
それでも最後まで読みおおせたのは、やっぱり、何かに惹きつけられたからではある。
それが何なのかはっきりとはわからないのだが、それこそがカズオ・イシグロのマジックなのか?
それと、文章のほとんどが会話であることも、この本を読み易くしているのかも。
とにかく、登場人物の饒舌さに圧倒される。
主人公は、ある著名なピアニストで、ある街へ頼まれて演奏にやって来る。
その演奏会「木曜の夕べ」までのたった数日の物語である。
ところが、主人公は次々と起こる不条理な出来事に巻き込まれ、いつも、最優先すべき問題をおろそかにするハメに陥り、永久に目的地に辿り着けない。
最初のうちは、それが何とも歯がゆく、ひよっとしたら「充たされざる者」とは読者のことではないのか、と勘ぐったりもした。
しかし、そのうち、そういう状況にも慣れてきて?可笑しささえこみあげてくるのだった。
運命に抗えぬにんげん、不条理な人生、混迷した社会、20世紀末の閉塞感は、救いようもなく今に続いているのかも。
懲りずにまたカズオ・イシグロの本をもう1冊、図書館で借りることに。