山口小夜子騒動?で中断していたカズオ・イシグロ著「忘れられた巨人」を、この週末に読み終えた。
入り込むまでは少々時間がかかったが、次々展開するストーリーの面白さにぐいぐい惹きこまれ、ミステリーではないが結末が気になった。
映像的というか、頭の中でまるでファンタジー映画を見ているようなのだった。
アーサー王没後のブリテン島、ブリトン人のアクセルとベアトリスという老夫婦が、ある日息子に会いに旅に出る。
しかし、当時ブリトン人と別の民族サクソン人がおり、二つの民族は言葉も文化も信仰も違っていた。
おまけに、地上は人々の記憶を失くす奇妙な霧に覆われていた。
二人はアーサー王の甥の老騎士、サクソン人の戦士、同じくサクソン人の若者などと旅の道連れになる。
また、二人の前には、鬼や妖精や雌竜が現れ、とくに雌竜の吐く息が霧の原因だと分かる。
・・・というストーりーの、その奥にある深い意味とは?
この物語の中に、たった一ヶ所「忘れられた巨人」という言葉が出てくる。
それは、記憶を取り戻すためにサクソン人の戦士が雌竜を退治した時のこと、
「かって地中に葬られ、忘れられていた巨人が動き出す」と。
アクセルとベアトリス夫婦の間にも、懐かしい記憶とともに、悲しい辛い記憶もあった。
民族と民族との間にある古い憎しみの記憶もまた甦る。
記憶とは何なのか?
記憶を消すのではなく、良い記憶をできるだけ多くとどめることができれば、と思う。