ここ数年、年間に読む本の数は再読もいれて、だいたい100冊くらいではないかと思う。
そんな今年の第一冊目の本が、小川洋子著「ことり」である。
お正月早々あんまり過激な本もナンだと思い、これに決めたのだった。
全篇を静かな時間が流れてゆく。なにより、ヒトの会話さえあまりない。なぜならこれは、ヒトの言葉ではなく鳥の言葉を話す兄とその弟との物語だからである。
弟は兄の言葉の唯一の理解者として、通訳としての役割をすることになる。兄によって鳥の世界へと誘われた弟は兄の死後、ボランティアとしてある孤児院の鳥小屋の世話をするようになる。そして小鳥の小父さんと呼ばれるようになる。
小鳥の小父さんとして生きた弟の傍にはいつも小鳥がいて、小鳥のさえずりは兄の言葉であった。世間から見れば孤独で寂しい人生に見えるかもしれない。でも本人はけっしてそうではなかった。小鳥の小父さんにとっては小鳥のさえずりを聞くことが最上の喜びであり、幸せであった。
淡々としたストーリー展開なのに、ハラハラドキドキするのはなぜなのか?
それは、あまりに無垢で純粋な者が、理不尽な目に遭うことへの恐怖、と言ってもいい。
小鳥の小父さんは、一歩間違えば子取りの小父さんにされてしまうかもしれないのである。
この物語に出てくるものは皆、小鳥のさえずりにも似てあまりに小さく、儚いものばかりである。
けれど、じっと耳を澄ませ心を澄ませると聞こえてくる。
このやさしく切ない物語が語りかけるものを、今しずかに聞きたいと思う。