本屋に行く度、この本を読むかどうか迷っては止めていた。
それが、この週末に読む本を探しに行き、とうとう買ってしまったのだった。
作者水村美苗の本は、「
日本語が亡びるとき」以来で、たった2冊目である。
しかも小説ではなかったので、私にとってはこれが初めての小説である。
私がこの本を読むのを躊躇したのは、もうすでに済んでしまったことだからである。
かってそんなことがあったかもしれないが、今は懐かしい思い出となっている。
「母の遺産」は、ざっと前半と後半に分かれる。
前半は、ある50代の大学非常勤講師の女性が、自分を振り回し続けた母がやっと死んでくれるまで。女性は父をないがしろにした母を、また子どもの頃から姉ばかり可愛がった母を許すことができない。
後半は、母の死後、母からまとまった額の遺産を受け取った彼女は、休養のため芦ノ湖畔のホテルで過ごすことになる。そこで、彼女は自分を裏切った夫との関係や自分の人生を見直し、ある重大な決断をする・・・
この小説は実際新聞小説として書かれたのだが、新聞小説という副題のとおり、新聞小説(金色夜叉)がストーリーの中に組み込まれているところが面白い。サスガ「日本語が亡びるとき」の作者である。
この小説の主人公は、最後に自分が幸せだと気付くのだが、基本的に、自分を幸せにするのは自分しかいない、と思う。
誰かのせいにしている限り、人は幸せ、という実感をもつことができないのである。
老親の介護は今や由々しき社会問題ではある。
ましてや、その親が、自分勝手でわがままで、人間として許せない親であるならば。
それでも、永久に続く介護はなく、その時自分のできる精一杯のことをするしかないのである。
なぜなら、介護とは誰のためでもない、自分のためにするものだから。
そして、人はみな死んで仏になるのである。