不思議な本である。
ストーリーとてないので、小説ではない。
かといって、随筆でもない。
散文詩のようでもあるし、ちょっと違うようでもある。
蛇行しながらも、川に流されてゆくように読み進む。
突然変わる景色が、けっこう鮮やかに目に浮かぶ。
だけど、夢の中の出来事のように不条理である。
新しい文学のようでもあるし、古典的な響きもかんじる。
私は詳しくないのだが、伝承文学を思い出したりした。
これを耳から朗読で聴くと、きっと美しいメロディーになるのではないか。
作者はまだ若き大学院生だという。
古典に造詣が深く、若いに似合わず時としてルビなくして読めない漢字が使われている。
そのせいか、臈たけた印象さえするのである。
文学はことばによって成り立っている。
人は自分の想いや感情をことばで表現する。
しかし、ことばにも自ずと限界があるのである。
「書かれたものは書かれなかったものの影でしかなく、いつまでも書き尽くすことはできない。」
私的には、若い新しい才能には大いに期待するものであります。