久しぶりに、芥川賞発表作掲載の文芸春秋を買った。
単行本もすでにあったのだが、日頃読まない雑誌なんぞを読んでみようかな、と思ったのだった。
さて、「乙女の密告」という今回の受賞作、赤染晶子という30代の女性の作品である。
かの有名なアンネの日記が、現代の京都の外国語大学を舞台に、ドイツ語のスピーチゼミに集う女子学生(乙女)らとドイツ人教授を通して再現?される。
実は、私は恥ずかしながらアンネの日記を読んでいない。
別に深い意味はないのだが、舞台(たしか日色ともゑがアンネ役)とか映画(美少女ミリー・パーキンス主演)で見てしまったからではないかと思う。
なので、アンネの日記の最大の謎が、誰がアンネを密告したか、であることさえ知らなかった。
アンネの日記には、原型となる日記以外に、彼女自身が手を加え清書したもの、ただ一人生き残った父オットー・フランクが編集したものの3バージョンあり、さらに新たに発見されたものまで出てきた。
おまけに、アンネは日記を書いてはいない、などいう意見もあることを今回初めて知ったのだった。
それはさておき、小説は、アンネを密告したのは誰かという謎を追ってすすんでゆく。
しかも、アンネの日記をスピーチコンテストで暗唱することになった主人公が、舞台に立つと必ず記憶喪失のように忘れてしまうアンネの言葉から、その謎は解明されてゆく。
最後に、作者としての謎は解き明かされるのだが、モチロン正しいかどうかは分らない。
「今、わたしが望むことは、戦争が終わったらオランダ人になることです!」という思いと「勇敢でありましょう!ユダヤ人としての使命を自覚しましょう」という相反した思いに苦悩するアンネ。
そして最後にアンネは選ぶ。自分自身のにアイデンティティに忠実に生きることを。
それに反して、乙女たちのアイデンティティのなさが際立ち、ただ群れるだけの存在として描かれる。
ちょっと極端すぎる気もするが、ま、当らずと言えども遠からず、乙女は年老いても同じである。
深読みすれば、自分とは何者かと、今一度問われるのである。
このたび一念発起?アンネの日記を買ってはみたものの、さてどうなることやら・・・・・