この本は一気読みではなく、時間をかけてゆっくりゆっくり読んだ。けっして面白くないからではなく逆で、美味しい食べ物は一口一口よく味わって食べたい、というのに似ている。なので、読み終わると寝る前のお楽しみがなくなって寂しくなる気さえしたのだった。
フツー、一気に読まないとストーリーが繋がらなくなったり、本の世界に入り込むのに時間がかかったりするがこの本は違う。本を開くとすぐにスッと入り込めるんである。リトル・アリョーヒンが泳ぐチェスの海のなかへ。。。
私は残念ながらチェスはおろか囲碁も将棋もほとんど知らないので、リトル・アリョーヒンのチェスや棋譜が詩のように美しいと言われても全く理解の外である。けれど常々、きっとあの盤上はプレーヤーにとっては全世界であり宇宙であるのだろうとは想像できるのだった。
小川洋子の作品(ほんの数冊だが)は、透明で静かな空気が漂い、喜怒哀楽を抑えて淡々と静かに、けれど愛情あふれる眼差しで主人公を描いてゆく。しかもその主人公は、けっして世間的に恵まれた存在ではなく、いえ、この世に存在すらしない者であるかのようである。
数学とかチェスとかちょっと特殊な題材を扱いつつも、たとえ狭く閉じられた世界であっても、深く深く入り込めばそこには広い世界、宇宙が拡がるものだと気づかせてくれる。そして、その世界がなんて心地よいものかを。
不思議な物語の小川ワールド。
余談ですが、先日の新聞に「今年中国で開催されるスポーツのアジア大会で囲碁・チェスが正式種目になる」という記事が載っていた。スポーツの範囲が身体ばかりでなく頭脳まで含まれるようになったのかどーか?
人間はやっぱり、ナンバー1を決めるのが好きみたい。。。