それまで読まなかった作家の本が急に読みたくなることがある。
理由はない。
なぜかその時の自分の気持がそうさせるのである。
そのように、私は小川洋子の本を読み始めたのだった。
「物語の役割」は物語について語った講演集で、人がなぜ物語を必要とするかについて、また、物語を追いかけた足跡が小説だとも言っている。
私たちは受け入れ難い現実を受け入れるとき、自分の心の形に合うように一つの物語に作り変えるのだという。
「妊娠カレンダー」は、たぶんこれだけ読んだことがあるのだが、他2編が収められており、初期の作品集である。
「ドミトリイ」という作品は、まるで通奏低音のように死が奏でられている気がする。
「ブラフマンの埋葬」は全く予備知識なく選んだのだが、すごくよかった。
ブラフマンという、犬でも猫でもない、小さな生き物とのひと夏の物語が、静かに淡々と語られるだけの不思議な世界。
人と人以外の生き物との愛情、それは同じ命と命との交流である。
そして、命には必ず終りがあり、やがて思い出と悲しみとともに埋葬される。。。
私の物語はまだはじまったばかりである。